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死亡時危急遺言で救われたケース|遺言相談事例

はじめは公正証書遺言を作ろうとしていた

Aさん(仮名)は重い病気で余命宣告を受け、ご家族と一緒に公正証書遺言作成の相談に来られました。
相続人の中に、行方不明の方がいて相続手続きが難航しそうな状況とのこと。

「どうしても遺言を残しておかないと家族が困る」
そう考え、公正証書遺言を作成することになりました。

Aさんの意思ははっきりしておられ、遺言書案の作成までスムーズに進みました。
あとは公正証書にするだけ。
公証人に病院まで出張してもらうために公証役場と日程を調整していました。

ところが公正証書作成予定日の1週間ほど前にAさんの病状が悪化。
医師からも「今週末が山かもしれない」と告げられました。

病院での「死亡時危急遺言」

このままでは遺言が間に合わない――。
ご家族から連絡をうけた私たちは 「死亡時危急遺言」 の作成を提案しました。

病院の一室で、医師と私たちの3名が証人となり遺言書を作成することに。Aさんは最後の力を振り絞ってご自身の意思を述べられました。

私が、Aさんが述べられた遺言の内容を書き取り、Aさんに読み聞かせて確認し、証人が署名押印。
緊急の場面でしたが、法律に則って無事に遺言を残すことができました。

遺言があったからこそ無事に手続きが進んだ

残念ながらAさんは二日後にお亡くなりになりました。
しかし、遺言があったおかげで、相続登記や預貯金の解約もスムーズに行えました。

もし遺言がなかったら――
行方不明の相続人を探し出すのに時間がかかっていた事でしょう。
疎遠だった相続人です。誰がどの遺産を相続するかで話し合いがもつれ、手続きが何年も止まっていた可能性もあります。

解決ポイント01

Aさんが公正証書遺言作成のために動き出していた事

Aさんはご自身が動けるうちに公正証書遺言作成の相談に来られていました。
私は、Aさんのご意思をしっかりとお伺いして、公正証書遺言作成の文案まで作成できていました。

このように遺言の内容をしっかりとお伺いできていた事で、危急時遺言をスムーズに作成することができました。

解決ポイント02

容態の変化をご家族がすぐに連絡して下さった事

よくあるのが亡くなってから連絡が入るケースですが、亡くなった後にはもうどうすることもできません。

今週末が山場という状況でご家族がすぐに行動してくださったおかげで、死亡時危急遺言を作成することができました。
担当医が証人として立会ってくださったのも、遺言の真正の担保として安心できる点です。

死亡時危急遺言とは?(詳しく解説)

民法に定められた「緊急時の遺言方法」

死亡時危急遺言(しぼうじききゅういごん)とは、病気や事故などで死期が迫り、公正証書遺言を作成する時間がないときに認められる特別な遺言方法です。

根拠は民法976条で、次のように定められています。

  • 遺言者が死亡の危急に迫ったとき
  • 証人3人以上の立会いが必要
  • 遺言者が口頭で意思を述べ、それを書き取って署名押印する

つまり、病院や自宅でも、証人がそろえばその場で遺言を残すことができる制度です。


作成の手順

  1. 遺言者が口頭で内容を伝える
     「自宅の土地は長男に相続させたい」「預金は妻に渡したい」といった内容を明確に述べます。
  2. 証人の一人が筆記する
     遺言者の言葉を正確に書き取り、遺言書を作成します。
  3. 証人全員が署名押印する
     証人3人全員の署名・押印が必要です。
  4. 家庭裁判所での確認申立て
     作成から20日以内に、家庭裁判所に「確認の申立て」をしなければ効力を失います。

有効となる条件と制限

死亡時危急遺言には、以下のような条件と制限があります。

  • 証人3人が必要
     遺言者の親族や利害関係者が証人になると、後で争いの原因になる可能性があります。なるべく中立の立場の人を証人にすることが望ましいです。
  • 家庭裁判所の確認が必須
     申立てをしなければ無効です。専門家に依頼すれば申立書類の作成もスムーズです。
  • 回復後6か月以上生存すると無効
     危急時に作った遺言は、遺言者が回復して6か月以上生きた場合は効力を失います(民法976条但書)。
     つまり、緊急時の「つなぎ」の遺言であり、体調が落ち着いたら必ず公正証書遺言に作り直す必要があります。
  • 死亡後に「検認の申立て」が必要
     確認手続きが済んだ後、通常の自筆証書遺言と同様に、家庭裁判所で「検認の申立て」を行う必要があります。
     検認は、遺言の存在と内容を相続人に周知し、偽造や変造を防ぐための手続きです。

公正証書遺言に比べると、遺言を作成してから使えるようになるまで時間と手間がかかるのが難点ですが、それしか遺言を作成する方法がないときには有効な手段です。


メリットとリスク

メリット

  • 公証役場に行かなくても作れる
  • 病院や自宅でその場で対応可能
  • 「とにかく今すぐ遺言を残したい」という状況に対応できる

リスク・注意点

  • 証人がすぐに集まらないと作成できない
  • 家庭裁判所での確認を怠ると無効になる
  • 記録が不十分だと「本当に本人の意思か」が争われやすい
  • 危急時の遺言なので、回復してから6か月以上生存すると効力がなくなってしまう

どんなときに使える?

  • 入院中に病状が急変したとき
  • 公証人を呼ぶ時間がないとき
  • 災害や事故で死期が迫ったとき

実際、病院で家族や専門家が立ち会って作成するケースが多いでしょう。

専門家に相談するメリット

死亡時危急遺言は、「緊急避難的な手段」です。
その場で作れても、形式不備や証人の不適格によって無効になるリスクがあります。

司法書士や弁護士などの専門家に相談すれば、

  • 適切な証人の手配
  • 書き取りのサポート
  • 家庭裁判所への申立て
    まで含めて、確実に遺言が効力を持つようにサポートできます。

まとめ

  • 死亡時危急遺言は、死期が迫ったときに使える「最後の遺言方法」
  • 証人3人、家庭裁判所での確認、6か月ルールに注意
  • あくまで緊急時の手段なので、回復したら公正証書遺言などに作り直すことが必要

担当者情報

司法書士廣瀬修一 (保有資格中小企業診断士、土地家屋調査士、行政書士、AFP)

廣瀬修一

死亡の危機が迫ってから遺言を作ろうとして間に合わなかったケースをいくつも見てきました。
死亡時危急遺言を利用することも大切ですが、元気な時に余裕をもって遺言を作るのが一番ですね。

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